蛇果─hebiichigo─

是我有病。

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中華書架的小宴。──『藍宇』其の吾拾爾



美しい名前。──『藍宇 Lan Yu』
シガ フタリヲ ワカツマデ。──『藍宇』其の拾参(2011年5月13日)
三年不蜚不鳴。──『藍宇』其の弐拾詩(2012年5月13日)
情熱の嵐。──『藍宇』其の燦拾讃(2013年5月13日)
生活と云う名の。──『藍宇』其の燦拾桎(2014年5月13日)
藍くて咲こうとした恋は。──『藍宇』其の是拾溢(2015年5月13日)
遥かに照らせ山の端の月。──『藍宇』其の是拾呉(2016年5月13日)
白刃可踏。──『藍宇』其の是拾潑(2017年5月15日)




そうして今年もまた、魔の五月はめぐってきました。
『藍宇』に出逢ってヘビーローテーションをして泣きはらしてぱんぱんになった顔で仕事をやっつけて日暮れとともにふたたび涙にくれていた、あの五月。
今年で9年が経ちました。

『藍宇』によって得たもの。『藍宇』によって喪ったもの。それぞれにありましたが得たもののひとつが書籍でした。2009年のきょう5月16日、『藍宇』の原作『北京故事 藍宇』(講談社)を入手して、それが呼び水になって、中華方面に関連する書籍が書架を占める率が飛躍的に上がりました。飛躍的といったってごくごくささやかなものなんですが。昨今では置き場所もお金も無いので無闇と蔵書を増やさぬよう、なるべく図書館を利用するようにしているので。『藍宇』以前から所有していたものも含めて、9年後のいまはこんなかんじです。


中華書架.jpg


ささやかではありますがこれもまた『藍宇』という病が刻んだ爪痕ではあります。
書架にある本のうちの何冊かについては、ここでも感想文などしたためています。

●壮士一去兮不復還。(『荊軻と高漸離』)
●恋之風景・影集+幾米電影挿画。
●うろこ持ついきもの。(『無極 正子公也デザイン画集』)
●既近且遠、既遠且近。──『藍宇』其の拾弐(『關錦鵬的光影記憶 In Critical Proximity: The Visual Memories of Stanley Kwan』)
●他有两个弟弟。──『藍宇』其の拾(『中国近世の性愛 耽美と逸楽の王国』)
●墓碑銘は青春。──『中国共産党を作った13人』譚璐美(新潮社)
●夢かも知れない。(『恋の風景 ─天使といた日々─』)
●髭姫様無頼控。──『項羽と劉邦』上巻(新潮文庫)
●王的拾遺29・書肆的小宴。(『長城のかげ』『楚漢名臣列伝』)
●藍宇漫画。(『私が愛する中国映画/我爱中国电影』)
●彼らが居た場所。(『天安門・撮影日記 1989.5.25〜6.8』)



2010年、「劉の項羽、范冰冰の虞姫で『鴻門宴』映画化」というニュースが流れまして。
でもそれは中華メディアにありがちな誤報で。楚漢がテーマの映画だけども劉は項羽じゃなくてどうやら劉邦を演じるらしい。呉彦祖が項羽を、張震が韓信を演じるらしい。それがつまり『王的盛宴(邦題:項羽と劉邦 鴻門の会)』だったというわけです。胡軍さんが『大漢風』で項羽であったことを思い合わせると、「陳捍東と藍宇」という宿命のふたりを演じた彼らが時を隔てて「項羽と劉邦」という宿命のふたりを演じることは、不思議だけど至極必然という気もしました。それで、項羽と劉邦に関する書籍にがぜん食指が動いたりなんかもしたのでした。風呂で読みすぎて文庫本が湿気でよれよれになっちゃった司馬遼太郎『項羽と劉邦』は愛蔵本までも買ってしまいました。

『史記』樊酈滕灌列伝第三十五『史記 6 列伝二』(ちくま学芸文庫)所収)に、老いて病んだ劉邦が臣を遠ざけて宮中にこもり、宦官の膝を枕に臥していたというエピソードが出てきます。
劉邦の身を案じて押しかけてきた樊噲たちが、秦の趙高の例を引いて涙ながらに劉邦を諫め、諫められた劉邦ははいはいうるせえなみたいなかんじで苦笑しながら起き上がるのですが。
うすぐらい宮殿の一室で劉邦に膝を貸していた名も無い宦官については、『史記』はなにも語っていません。
病み衰えた高祖の孤独な重みをその膝にうけとめていた「彼」。
面貌はどんなだったのか。歳はいくつぐらいだったのか。なにも語られていないからこそ「彼」の来し方と高祖亡きあとの行く末が気にかかります。膝枕を許すほど狎れた相手。其処は彼と無い性的な匂いも感じられ、であるからにはやはり美しくあってほしいしできれば可憐であってほしい。
情報がすくなければすくないほどに、余地は無限にひろがる。
止め処も無いような私のその「余地」にひとつのかたちを与えたのが、黒澤はゆまさんの『劉邦の宦官』だったりしました。


『藍宇』以前に購入した本でいちばん古いのはどれかしらと調べてみたら1964年初版の鐘ヶ江信光著『中国語のすすめ』(講談社現代新書)で、1995年8月刊行の第56刷を購入していました。ほかにも94年、95年、96年に出た本が多かった。このころ、私の目を中国・香港へと向けさせる出来事があったのです。記憶を辿ってみたところ、1995年に香取慎吾主演の『ドク』というドラマである役者に出逢ったことがすべてのはじまりだった、という結論に達しました。役者の名を椎名桔平といいます。その桔平が初の単独主演を務めたのが同年公開の三池崇史監督作品『新宿黒社会 チャイナマフィア戦争』でした。『極道黒社会 RAINY DOG』(97年・哀川翔主演)、『日本黒社会 LEY LINES』(99年・北村一輝主演)とつづく「黒社会」三部作の第一作です。椎名桔平は本作で、中国残留孤児二世の刑事、桐谷龍仁を演じました。母親が中国人という設定でした。ひとりの役者に惚れ、主演作を観てみたところ、中国の血を引く男を演じていた。それで95年以降、私の書架に中国・香港に関する書籍が増えていった。そういう経緯でした。「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」の反対みたいなことです。高校時代から続けていた同人誌に発表した小説に、桔平をモデルにした中国人の男を登場させたりなんかもしていましたよ黒絹の長袍着せたりなどして。こんな記事書く素地はその時分からあったってことでしたよ。三つ子の魂百まで。雀百まで踊り忘れず。すでに三歳児でも雀の仔でもありませんでしたけれどもね。そんなもんですよファンなんていういきものは。桔平は98年の映画『不夜城 SLEEPLESS TOWN』でも日中ハーフの中国残留孤児二世、呉富春を演じていました。かれの容貌に中国人を匂わせるなにがしかがあるということなのかも知れません。腰を据えて中華沼にはまったいまだから自信を持って申しますが、椎名桔平は清朝の官服もまつがい無く似合うと思うから何時か映画か電視劇で胡軍さんと共演してくれたりしまいか。


みたいなかんじで書架の本から昔の男に思い馳せ、ふたたび2018年に帰還するなど。
なにもかもみな五月の魔の所為でした。
つまるところは『藍宇』の所為でした。
| 17:29 | 藍迷。 | comments(5) | - |
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