最終回の男。
2016.11.17 Thursday
前回の記事が「666」という悪魔の数字を刻んでしまったせいで、浄化のために更新をお休みしていましたよ。うそでしたすみません。毎度いろいろぱつぱつなのに加えて、これまたなにかと浮かれぽんちになってしまっていましたよ。
石田治部少輔三成の中のひとが降臨した関ヶ原合戦祭り2016に参戦し、畦道全力で走って治部様追っかけたり。
東京国際映画祭のチケ取りシステムのクソさ加減に怒り心頭に発したり。
でも東京中国映画週間で観た『ロクさん』(管虎導演)と『ソード・オブ・デスティニー』がおもしろかったんでちょっと溜飲下げたり。
関白豊臣秀次公と直江山城守兼続様ご登壇の「『真田丸』スペシャルトークショー in 駿河台大学」にウットリしてみたり。
漸くBSで放送が始まった中国電視劇『琅琊榜』にもえもえしたり。
ちょうど一年前のいま時分、微博のフォロワさんがのきなみアツくなっていた電視劇。
そのタイトルが『琅琊榜』でした。
「ろうやぼう」と読みます(普通話読みはlangyabang。英題は“Nirvana in Fire”)。
2015年度國劇盛典で10冠獲得、微博のドラマジャンルでの検索数が過去最高の226万回、ネット放送の視聴数60億回超を記録した、2015年中国最大のヒットドラマです。
観るまえからあんまりすごいすごい言われてしまうと観たくなくなるひねくれものの私ですが、ドロドロ系宮廷劇(『宮廷の諍い女』とか)は大好物ですので、全54話、一昨日放映の最終話まで愉しく完走いたしました。プロットとストーリーがすぐれておもしろいのも然る事乍ら、キャスティングがなにしろ佳かった。ヤングからおっさんまでステキメンズが目白押し。女子キャラも、一部朝ドラのヒロインみたいなガサツで抜けていて押しつけがましいのが一切おらず、つよくて凜としていて奥床しい美女揃い。
わたくしごのみの「ふたり」も硬軟とりまぜ登場しますが、なかでもいちばんらぶーなのがこのおふたり。誉王・蕭景桓とその美人参謀、秦般若。
立ち位置も性格も性別もまるでちがうんですけれども時節柄、『真田丸』の越後の某主従を重ねてもえもえしたりもしていましたよすいません。
野心家で切れ者で、貴公子然とした立派な押し出しながらメンタルの弱さをちらちら覗かせる誉王。
滅ぼされた一族の再興を懸けて一途に誉王を支える美しき謀士、秦般若。
誉王は秦般若の前では嫁にも言えない弱音を吐くし、秦般若はそんな誉王を明らかに愛おしく想っている。そんなふうに一種腐れ縁な関係を匂わせながらも色っぽいシーンは一切無く、「主」と「従」の一線は決して踏み越えない。だからこそ、誉王が自分と同じ滑族の血を引くことを知った秦般若が涙ながらに「我的殿下!」と血を吐くように叫び平伏する場面では胸を衝かれました。男女ではなく同志としての彼らのありかた、そして滅びの様。佳かったのです。
自信満々、威風堂々としていた傲慢で美しいひとが、いろんなボタンの掛け違いが重なった挙げ句にどんどんさびしく、どんどんだめになってゆく。
誉王って、10年くらい前だったら胡軍さんが演っても似合うようなキャラクターかも知れない、と思いながらみてました。
終盤から最終回にかけての怒濤の展開、えげつない大どんでん返しの畳み掛けというのが中国電視劇のお約束みたいなものかと思うのですが、それに比べると『琅琊榜』の最終回はどこか淡々としていました。それまでが山場続きで、大概のことは決着がついてしまってたからというのもあるかも知れません。物語の終わりも、しっとりと静謐な余韻と謎を残す、正しく主人公梅長蘇(胡歌)そのひとのような最後でした。
と、いうわけで。
顧みてみたくなっちゃったです。古装劇に於ける「胡軍さんの最終回」を。
所持しているDVD-BOXが以下の3作のみなのでもとより偏向は承知ですが、「自信満々、威風堂々としていた傲慢で美しいひとが、いろんなボタンの掛け違いが重なった挙げ句にどんどんさびしく、どんどんだめになってゆく」をよくもここまで地で行ってくださるなあといまさらのように感無量です。
天龍八部(2003年):喬峯/蕭峯
胡軍さんが演ずるのは江湖最大の組織丐幇の幇主・喬峯、本名蕭峯。実の父は遼国皇太后家の血を引く契丹人。雁門関で漢人の奇襲を受けて妻を殺され、幼い息子(蕭峯)を助けて死ぬ、第1話のみ登場のその父、蕭遠国も胡軍さんが演じています。もう、このひと主役でドラマ1本撮ってほしいくらいかっこよいの。
自身も知らなかった出生の秘密が露見してしまってからは、掌返したように冷たくされ迫害され酷い目に遭わされ、漢への恩義と故国である遼(契丹)への忠義のあいだで引き裂かれながら、それでも両国の平和を一途に願う蕭峯。義兄弟の契りを結んだ遼の皇帝・耶立洪基を説得して宋から兵を退かせ、己の赤心を示すために父が死んだ雁門関の同じ場所で自死を遂げる蕭峯。
豪放磊落。凋落と寂寥。雄々しく潔い末期。
このひとならではの表現だったと思います。
大漢風〜項羽と劉邦〜(2004年):項羽
サブタイトルで謳っているように『大漢風』はあくまでも「項羽と劉邦」のお話ですから、項羽の死を以て最終回というわけではありません。なので些か反則ですけれども自分の心情的にはここでジ・エンドなのですみません。
本作の造型設計は『藍宇』(2001年)、『画魂』(2003年)、『長恨歌』(2005年)と胡軍さんと仕事をしてきた香港の名匠・張叔平(ウィリアム・チョン)。
胡軍さんを世界一美しくみせることにかけては關錦鵬と並んで他の追随を許さないマスターです。
第44話の「覇王別姫」。深紅の帳のなか、ふたりきりでおこなわれる項羽と虞姫の婚礼、花嫁衣装であり死に装束でもある純白を纏った虞姫の自死、そして血の色の花降る下での哀悼と惜別。
このあたりの(ちょっと少女漫画めいた)ロマンティックな演出は、張叔平のセンスによるところも大きいんじゃないだろうかと思います。
息子を殺され恨みを抱く老人に騙され、死地へと追いやられる項羽。これまで重ねてきた暴虐の果て、自業自得とはいえ、烏江のほとりでの奮戦から自刎に至るまでの凄まじさは人ならぬものがその肉体に降りてきたかのようで、神々しいことこのうえ無い。流血淋漓の修羅場のただなかでふと、戸惑うような、訝しむような、あどけない子どもの顔になって立ち尽くす。胡軍さんがときおりみせるこの顔が、なんかもう、どうにもこうにもすきなんです。『レッドクリフ』の趙雲も長坂の戦いのとき、そんな顔をしていた。それで恋に落ちました。間違い無く。
復讐の春秋─臥薪嘗胆─(2006年):呉王夫差
『大漢風』につづいて張叔平が胡軍さんの衣装を担当しています。くわえて監督が張芸謀作品などの名カメラマン・侯咏(劉さん出演の『ジャスミンの花開く』の監督でもあります)ですので、胡軍さんを世界一美しく見せることにかけては他の追随を許さない、素晴らしい仕上がりになっております。
主役は越王勾践(陳道明)で、胡軍さんの呉王夫差はその相手役。誇り高い勾践を自分の奴隷に貶めて、どSなプレイの限りを尽くす悪役的な立ち位置。
父の代からの呉越のすったもんだとか、范蠡と西施のラブストーリーとか、夫差が西施に岡惚れとか、いろいろあった長い話(全41話)をざっくりまとめると勾践が形勢逆転、夫差に降伏を迫ります。最終回、深夜の呉王宮、差し込む月明かりのもと玉座の間での夫差の独白、狂乱、殺戮。素肌の上に深緋と白の長衣を重ね、それまできっちり結っていた髪を解き流した夫差の造型の麗しいことかっこいいこと。『大漢風』の覇王別姫の場面と同じく、喪の色の白と血(生命)の色の赤の対比。降伏するくらいなら自害を選ぶ、と自棄になっていた夫差が亡き軍師・伍子胥の声に諫められて自らの敗北をみとめ、勾践の前に膝を折って呉の民の命乞いをし、煌びやかな王衣を纏って命を絶つまで、正しく舞台役者胡軍の独擅場。
中国の電視劇は全50話ぐらいがあたりまえなので、レンタルするにしろ録画をこなすにしろ二の足踏んでしまいがちですが、腹を据えて観始めるとどはまり、ということが往々にして起こります。推し演員さんおめあてで視聴を始めたら共演している別の演員さんらぶーになってしまいました的連鎖の挙げ句に沼にはまるというパターンも、往々にして起こります。ちょっとまえ、上記3作の時代にくらべるとだいぶ恰幅のよろしくなった(笑)胡軍さん主演の『フビライ・ハン』(全50話)をレンタルで観て、中国電視劇ってやっぱりおもしろいなと感じました。『琅琊榜』で誉王を演じた黄維徳(ビクター・ホァン)さんが周瑜を演っている『三国志 Three Kingdoms』、全95話とかとんでもない話数ですけれどもちょっと手を出してみたくなっているきょうこのごろ。
石田治部少輔三成の中のひとが降臨した関ヶ原合戦祭り2016に参戦し、畦道全力で走って治部様追っかけたり。
東京国際映画祭のチケ取りシステムのクソさ加減に怒り心頭に発したり。
でも東京中国映画週間で観た『ロクさん』(管虎導演)と『ソード・オブ・デスティニー』がおもしろかったんでちょっと溜飲下げたり。
関白豊臣秀次公と直江山城守兼続様ご登壇の「『真田丸』スペシャルトークショー in 駿河台大学」にウットリしてみたり。
漸くBSで放送が始まった中国電視劇『琅琊榜』にもえもえしたり。
ちょうど一年前のいま時分、微博のフォロワさんがのきなみアツくなっていた電視劇。
そのタイトルが『琅琊榜』でした。
「ろうやぼう」と読みます(普通話読みはlangyabang。英題は“Nirvana in Fire”)。
2015年度國劇盛典で10冠獲得、微博のドラマジャンルでの検索数が過去最高の226万回、ネット放送の視聴数60億回超を記録した、2015年中国最大のヒットドラマです。
観るまえからあんまりすごいすごい言われてしまうと観たくなくなるひねくれものの私ですが、ドロドロ系宮廷劇(『宮廷の諍い女』とか)は大好物ですので、全54話、一昨日放映の最終話まで愉しく完走いたしました。プロットとストーリーがすぐれておもしろいのも然る事乍ら、キャスティングがなにしろ佳かった。ヤングからおっさんまでステキメンズが目白押し。女子キャラも、一部朝ドラのヒロインみたいなガサツで抜けていて押しつけがましいのが一切おらず、つよくて凜としていて奥床しい美女揃い。
わたくしごのみの「ふたり」も硬軟とりまぜ登場しますが、なかでもいちばんらぶーなのがこのおふたり。誉王・蕭景桓とその美人参謀、秦般若。
立ち位置も性格も性別もまるでちがうんですけれども時節柄、『真田丸』の越後の某主従を重ねてもえもえしたりもしていましたよすいません。
野心家で切れ者で、貴公子然とした立派な押し出しながらメンタルの弱さをちらちら覗かせる誉王。
滅ぼされた一族の再興を懸けて一途に誉王を支える美しき謀士、秦般若。
誉王は秦般若の前では嫁にも言えない弱音を吐くし、秦般若はそんな誉王を明らかに愛おしく想っている。そんなふうに一種腐れ縁な関係を匂わせながらも色っぽいシーンは一切無く、「主」と「従」の一線は決して踏み越えない。だからこそ、誉王が自分と同じ滑族の血を引くことを知った秦般若が涙ながらに「我的殿下!」と血を吐くように叫び平伏する場面では胸を衝かれました。男女ではなく同志としての彼らのありかた、そして滅びの様。佳かったのです。
自信満々、威風堂々としていた傲慢で美しいひとが、いろんなボタンの掛け違いが重なった挙げ句にどんどんさびしく、どんどんだめになってゆく。
誉王って、10年くらい前だったら胡軍さんが演っても似合うようなキャラクターかも知れない、と思いながらみてました。
終盤から最終回にかけての怒濤の展開、えげつない大どんでん返しの畳み掛けというのが中国電視劇のお約束みたいなものかと思うのですが、それに比べると『琅琊榜』の最終回はどこか淡々としていました。それまでが山場続きで、大概のことは決着がついてしまってたからというのもあるかも知れません。物語の終わりも、しっとりと静謐な余韻と謎を残す、正しく主人公梅長蘇(胡歌)そのひとのような最後でした。
と、いうわけで。
顧みてみたくなっちゃったです。古装劇に於ける「胡軍さんの最終回」を。
所持しているDVD-BOXが以下の3作のみなのでもとより偏向は承知ですが、「自信満々、威風堂々としていた傲慢で美しいひとが、いろんなボタンの掛け違いが重なった挙げ句にどんどんさびしく、どんどんだめになってゆく」をよくもここまで地で行ってくださるなあといまさらのように感無量です。
天龍八部(2003年):喬峯/蕭峯
胡軍さんが演ずるのは江湖最大の組織丐幇の幇主・喬峯、本名蕭峯。実の父は遼国皇太后家の血を引く契丹人。雁門関で漢人の奇襲を受けて妻を殺され、幼い息子(蕭峯)を助けて死ぬ、第1話のみ登場のその父、蕭遠国も胡軍さんが演じています。もう、このひと主役でドラマ1本撮ってほしいくらいかっこよいの。
自身も知らなかった出生の秘密が露見してしまってからは、掌返したように冷たくされ迫害され酷い目に遭わされ、漢への恩義と故国である遼(契丹)への忠義のあいだで引き裂かれながら、それでも両国の平和を一途に願う蕭峯。義兄弟の契りを結んだ遼の皇帝・耶立洪基を説得して宋から兵を退かせ、己の赤心を示すために父が死んだ雁門関の同じ場所で自死を遂げる蕭峯。
豪放磊落。凋落と寂寥。雄々しく潔い末期。
このひとならではの表現だったと思います。
大漢風〜項羽と劉邦〜(2004年):項羽
サブタイトルで謳っているように『大漢風』はあくまでも「項羽と劉邦」のお話ですから、項羽の死を以て最終回というわけではありません。なので些か反則ですけれども自分の心情的にはここでジ・エンドなのですみません。
本作の造型設計は『藍宇』(2001年)、『画魂』(2003年)、『長恨歌』(2005年)と胡軍さんと仕事をしてきた香港の名匠・張叔平(ウィリアム・チョン)。
胡軍さんを世界一美しくみせることにかけては關錦鵬と並んで他の追随を許さないマスターです。
第44話の「覇王別姫」。深紅の帳のなか、ふたりきりでおこなわれる項羽と虞姫の婚礼、花嫁衣装であり死に装束でもある純白を纏った虞姫の自死、そして血の色の花降る下での哀悼と惜別。
このあたりの(ちょっと少女漫画めいた)ロマンティックな演出は、張叔平のセンスによるところも大きいんじゃないだろうかと思います。
息子を殺され恨みを抱く老人に騙され、死地へと追いやられる項羽。これまで重ねてきた暴虐の果て、自業自得とはいえ、烏江のほとりでの奮戦から自刎に至るまでの凄まじさは人ならぬものがその肉体に降りてきたかのようで、神々しいことこのうえ無い。流血淋漓の修羅場のただなかでふと、戸惑うような、訝しむような、あどけない子どもの顔になって立ち尽くす。胡軍さんがときおりみせるこの顔が、なんかもう、どうにもこうにもすきなんです。『レッドクリフ』の趙雲も長坂の戦いのとき、そんな顔をしていた。それで恋に落ちました。間違い無く。
復讐の春秋─臥薪嘗胆─(2006年):呉王夫差
『大漢風』につづいて張叔平が胡軍さんの衣装を担当しています。くわえて監督が張芸謀作品などの名カメラマン・侯咏(劉さん出演の『ジャスミンの花開く』の監督でもあります)ですので、胡軍さんを世界一美しく見せることにかけては他の追随を許さない、素晴らしい仕上がりになっております。
主役は越王勾践(陳道明)で、胡軍さんの呉王夫差はその相手役。誇り高い勾践を自分の奴隷に貶めて、どSなプレイの限りを尽くす悪役的な立ち位置。
父の代からの呉越のすったもんだとか、范蠡と西施のラブストーリーとか、夫差が西施に岡惚れとか、いろいろあった長い話(全41話)をざっくりまとめると勾践が形勢逆転、夫差に降伏を迫ります。最終回、深夜の呉王宮、差し込む月明かりのもと玉座の間での夫差の独白、狂乱、殺戮。素肌の上に深緋と白の長衣を重ね、それまできっちり結っていた髪を解き流した夫差の造型の麗しいことかっこいいこと。『大漢風』の覇王別姫の場面と同じく、喪の色の白と血(生命)の色の赤の対比。降伏するくらいなら自害を選ぶ、と自棄になっていた夫差が亡き軍師・伍子胥の声に諫められて自らの敗北をみとめ、勾践の前に膝を折って呉の民の命乞いをし、煌びやかな王衣を纏って命を絶つまで、正しく舞台役者胡軍の独擅場。
中国の電視劇は全50話ぐらいがあたりまえなので、レンタルするにしろ録画をこなすにしろ二の足踏んでしまいがちですが、腹を据えて観始めるとどはまり、ということが往々にして起こります。推し演員さんおめあてで視聴を始めたら共演している別の演員さんらぶーになってしまいました的連鎖の挙げ句に沼にはまるというパターンも、往々にして起こります。ちょっとまえ、上記3作の時代にくらべるとだいぶ恰幅のよろしくなった(笑)胡軍さん主演の『フビライ・ハン』(全50話)をレンタルで観て、中国電視劇ってやっぱりおもしろいなと感じました。『琅琊榜』で誉王を演じた黄維徳(ビクター・ホァン)さんが周瑜を演っている『三国志 Three Kingdoms』、全95話とかとんでもない話数ですけれどもちょっと手を出してみたくなっているきょうこのごろ。