松の内も過ぎてしまって出遅れも良いとこですが新年明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
そして、こんな極東の極北で場違いに愛を叫んで恐縮ですが。
ザ・イエロー・モンキー
復活おめでとうありがとう!!!!!
「吉井和哉」というワードの出てくる記事がいったい此処にはいくつあるのだろうと数えてみたらば32個もありました。
『藍宇』ならびに胡軍劉に異常な愛情を傾ける、ただそれだけのために作ったこの場所なのになんだろうこの吉井率、吉井スレイヴっぷりというものは。自分のしでかしたこと乍ら、いまあらためて自分でもびっくりぽんです。そもそも2ヵ月近くかけてはじめて『藍宇』というものについて書いた
感想文にしてからが、
泣いても駄目もう帰れない。
という、吉井作詞のザ・イエロー・モンキー楽曲
“薔薇娼婦麗奈”の引用から始めているわけです。
1994年発表の、金で手に入れた愛を歌うこの楽曲は、
《真実の皮をはいで 痛くないかい 僕の麗奈》
《この世は金 金さえあれば 恐くないね 僕の麗奈》
《お願いだこの僕と手をつないで地獄を見に行こう》
《頼むからこの僕と腕を組んで地獄を見に行こう》
陳捍東の独白とも聞こえるような科白の釣瓶打ち。
「個人的には『藍宇』裏テーマ」なんてことものちに書いていますが、『藍宇』を観た直後に“麗奈”を聴いて、
『藍宇』を知るまえに私はもう『藍宇』に出逢っていたのか。
なんて思って、ちょっと慄然としたものでした。
そうだった。
すっかり忘れていましたがザ・イエロー・モンキーというバンドは、陳捍東と藍宇が出逢った1988年に結成されたのですよ。
藍宇が此の世を去ったころにザ・イエロー・モンキーは、『PUNCH DRUNKARD TOUR 1998/99』という全113本の地獄巡りに出発し、ザ・イエロー・モンキーがバンドとしての活動に事実上の終止符を打ってひと月のちに『藍宇』はクランクアップを迎え、そして昨日、2016年1月8日に復活したザ・イエロー・モンキーが始動するライヴツアーのその初日は5月11日。私が密林で『藍宇』DVDをぽちった日。忘れようたって忘れられない。
すべては偶然じゃ無いかと、いえばいえます。
止め処無く溺れてしまうものの臭跡を辿ることに生きている時間の大半を費やしていますと、こうした暗合にだって、最早慣れっこではあります。
でも暗合というより必然の為せる業なんだろうと思います。それを呼ぶのはほかならぬ私自身の思いの強さです。えらそうなことを平然と言います。言ったって良いでしょ年始ぐらい。
という、今年も例によってうんざりするほどくそ長尺の前置きを経て。
ザ・イエロー・モンキーの復活と日を同じくして香港から届きました。
おもしろかった。
勿論、超高速で繰り出されるアル化いちじるしい北京訛りの台詞を簡体字幕で鑑賞しているわけなので、細部はぜんぜんわかっちゃいないのですが。
でもすごく好きだぞこのかんじは、ということだけはわかります。
劉徳華がみせる被虐塗れの美と王千源の弱気狂気綯い交ぜのゲスっぷり、その好対照。モデルになった事件の実際の被害者である呉若甫演じるベテラン刑事の貫禄。『ポリス・ストーリー レジェンド』の、武江のクラブのバーテンさんとか薬屋のおやじとか、劉さんとは『硬漢』以来の仲のかいじゅうさんだって勿論出ていますとも!
そんなメンツにまじって熱血刑事・邢峰を演じている劉さんは、これまでの丁晟作品における飛び道具っぷりをいっさい封じて「ごく普通の人」です。
王千源がこの作品の演技によって台湾金馬奨最優秀助演男優賞にノミネートされたとき、微博経由で目にした感想文がありました。ちょっとうろ覚えなのだが、王千源の極悪芝居は見た目にもわかりやすいから演技派といわれて持て囃されるけど本当に優れているのは劉の芝居のほうだ、みたいな内容だったと記憶しています。劉さんが賞レースから外れたことをくちおしく思うファンの人が書いたんじゃないかと思われます。
実際に観てみたら王千源ほんとうに凄かったので、「うん、まったくもっておっしゃるとおりだ」とは思わなかったですが。
でも、同じ丁晟作品でいえばたとえば『硬漢』の老三みたいな外連とは、今作の邢峰は無縁。地道にこつこつ体を張って誘拐犯を追い詰める、実直でアツい刑事さんという役どころです。派手な銃撃戦を繰り広げるわけでも、中国武術でなみいる敵をぶちのめすシーンがあるわけでも無い。お色気なんか勿論あるわきゃあ無いです。「劉が出演している」という事実がときに見えなくなってしまうほど。これぞ劉が演じなければならない、劉が演じてこそ映える唯一無二のキャラクター、ということではもう、ぜんぜん無い。
それでいて持ち前の「華」はけっして消さない。劉じゃない役者がこれを演じたら映画の空気がまったく違ってしまっていたでしょう。捜査の合間合間にちらりとみせる、ばさばさまつげが翳落とす横顔の、あいもかわらず美しいことったら無い。
こいつはプロの役者として効率良くきっちり期待に応える仕事をしてくれる筈、という監督の信頼を体現したような佇まい。上記の感想文を書いたひとは、おそらくこのあたりのことを言っていたんだろうなあ。
丁晟作品お馴染みの時間軸の揺らぎとか、「こうあってほしいもんだなあとキャラクターが妄想する直近の未来」を見せるフェイクも勿論健在。監督自身も例によって一瞬だけ出ています。
そしてこれもそんな仕掛けのひとつ──というか監督の劉さんへのラブがだだ漏れた瞬間。
のっぴきならない捜査の最中に、病気の子どもが退院するからおとうさん早く帰ってきてよ、みたいな催促メールが嫁からときどき邢峰のもとに届くのですが。
事件が解決した朝、おとうさんが息子と電話で話すこの場面のこの字幕に、最後の最後で泣かされたねえ。
2015年公開の「良い映画」トップ10の第8位に選ばれた作品だけど、劉徳華や劉、王千源、そして林雪も出ている作品だけど、派手でも無けりゃ話題性も無いし、日本公開はどうなることやらまったくわかりませんけれど。
日本の劇場で日本語字幕で、このカットを是非とも、見てみたいものだなあ。