本を読むのが仕事で(校正者なもので)、なおかつオールタイムくそ忙しいため、純粋に自分のお楽しみのための読書の時間というものがなかなかつくれません。
たとえば通勤という時間をそれに充てている方もおられると思いますが、在宅仕事なので通勤がありません。寝る前のおふとんのなか、もしくはお風呂に入ってるときに、努めて読むようにしています。
あったかいお風呂であったまりながらご本を読む。
極楽です。
風呂上がりにビールひっかけながら、そのまま読みつづけたりします。
他人様からお借りした本などはもちろん風呂には持ち込みませんが、自分で買った本ならば、お気に入りであればあるだけ風呂読みの頻度が高くなります。
司馬遼太郎の『項羽と劉邦』なんかおもしろすぎて、バスタブの湯が水になるまで読んでました。それをくりかえしていたためにカバーが湯気でふやけてぼろぼろになってしまい、新しい文庫本買い直したりしました。薔薇のかほりの入浴剤入れたピンクのお湯のなかで読んでるもんで、『項羽と劉邦』の記憶までもがほんのり薔薇いろにつつまれてしまうという、それっていかがなものでしょうかな事態にもなったり。
宮城谷昌光さんの本は昨年の春ぐらいから読みはじめました。
数巻にわたる長篇にはまだ手が出せなくて、中篇とか短篇ばっかり読んでます。
はじめて読んだのが、劉邦死後、呂后が牛耳る漢の後宮を舞台にした中篇『花の歳月』。
いたく感銘を受け、その次に『沈黙の王』を読み『夏姫春秋』を読みました。
すみずみまで神経のゆきとどいた、端正で美しい文章を書く方だなあと思いました。楚漢方面のお話もっと読みたいなあと著作をたどって、読んだのがこれ。
『長城のかげ』(文春文庫)
楚漢戦争とよばれた項羽と劉邦のたたかいは混乱をきわめ、臣下は主にそむき自らの利に奔ってなお不名誉とされなかった。貴族の血胤たる項羽にたいし平民出身の劉邦。しかし帝位は天が命ずるものである。本書は、覇をあらそうふたりの英傑のすがたを、友、臣、敵の眼に映ずるまま、詩情ゆたかに描いた名篇集。
●逃げる(季布)/●長城のかげ(廬綰)/●石径の果て(陸賈)/●風の消長(劉肥)/●満点の星(叔孫通) ※( )内は視点人物。
司馬遼太郎の筆になる劉邦は可憐で天然でかわゆい姫でしたが、宮城谷さんの劉邦はアダルツでした。あけすけにえろくて性悪なビッチです。庶子劉肥が愛憎なかばする視点で「父」をみつめた「風の消長」とか、同年同月同日に生まれた廬綰が「相愛」の劉邦への無器用な愛を吐露する表題作「長城のかげ」なんかがとくにそう。かかわる人間、男も女も漏れ無く誑し込んでます。王になる天命をもってうまれた人間と、彼にかかわり、命を落としたり置き去られたりする人間の顛末、そのせつなさが読後に残ります。
しかしそんなアダルツ劉邦を思いっきり劉燁さんイメージして読んじゃったもんで、ちょっとこまったことになったりもして。好色といわれた男だし、『王的盛宴』のなかにも夜のおたわむれ的場面だってあるんですけども(微博のフォロワーさんとこでいただきました足がなげえ!→
■)。
顧みてみれば劉燁さんだって映画のためなら脱いだり尻見せたり男相手にチュウしたりされたりチュウ以上のこともしたりされたりの役者人生じゃないかそればっかりじゃないけども、と気を取りなおしたりなんかして。
ともあれ『項羽と劉邦』とはまたちがう劉邦を読みたいなという向きにはたいへんおすすめかとおもいます。
そして1月10日に文庫初版が出たばかりのこちら。
『楚漢名臣列伝』(文春文庫)
秦の始皇帝の死後に勃興してきた楚の項羽と漢の劉邦。楚漢戦争という激動の内乱時代、覇を競う二人に仕え、戦う異才・俊才たちが、天下の流れを見極め己を賭ける。「劉邦は必ず害となります」項羽の軍師として、劉邦を殺すことを進言し続けた范増。劉邦の子のもと前漢の右丞相となった周勃ほか、名臣十人たちの知られざる姿。
楚漢の時代/張良/范増/陳余/章邯/蕭何/田横/夏侯嬰/曹参/陳平/周勃
昨日買いました。
「楚漢の時代」に、秦が定めた三十六郡の名称と、それらがかつて属していた国の名称がすべて列挙されていて、自分のようなビギナーにはたいへんわかりやすかったです。とりいそぎ「張良」を読んでみました。司馬さんの張良がたおやかな容姿の陰に勁烈な情熱を秘めたひとだったのとくらべ、宮城谷さんのは「秘めた」どころかあからさまに鼻っぱしらが強い。出逢ったばかりの劉邦が張良の美貌をひとめみて、
のちに司馬遷は張良の容姿について、
──状貌、婦人好女の如し。
と、述べた。このなよなよとした男が、とても戈矛をふるって楚王を助けるとはおもわれない。
「楚王は女より男を好むとはきかぬ。なんじは行ってもむだだ」
なんて揶揄するんだけど、舐めた真似してくれんなよおっさん的な啖呵切って劉邦の笑いを瞬時に凍りつかせたりする、そんな張良さんです。
秦への復讐心で凝り固まった血の気の多いはねっかえりが、流浪するなかで劉邦に出逢い、劉邦を識り、劉邦に心酔し、そして臣従していく。この短篇の張良がというよりも張良という人物のありようが、なんだか佳いなあと思えてきました。怜悧な頭脳と苛烈さと闇雲な情熱という、なかなか相容れないようなものをすんなり同居させ、なおかつまれにみる美貌の持ち主でもあるという。すごく魅力的かも。張良ファンが多いのもわかるかも。ほれたかもわし……。
これ読んだら次は斉の田横を描いた『香乱記』など、読んでみたい。
以下はご本の話じゃないけれど。
もうご存じの方もいらっしゃるかもしれません、『王的盛宴』のドキュメンタリーを扱ったプログラム。
《新电影传奇:王的盛宴逆袭》
(本編は3分15秒ぐらいのところから始まります。)
観たことある映像もあるし、はじめて観る映像もあります。ねたばれ要素がそれなりに強いので視聴にはご注意ください。わんこがこんなお顔も見せてます。
きゃわいいん。