北京故宮博物院200選@東京国立博物館平成館。
生憎の雨模様でしたが昨日行ってきました。
生憎の雨模様なせいか並ぶこともなく入館でき、そして会場内も芋の子を洗うかの如き非常事態にはなっていなくて、みやすかったです。それはなんでかといえば本展観の目玉、中国国外での公開がはじめてとなるこれが
神品 清明上河図
もうお国へ帰っちゃったからでしょう。
複製で鑑賞しました。
「神品」というとなにやらえらそげですが、お高くとまったところなどない、すごくおもしろい絵巻でした。
しかし絵にこめられている情報量が膨大なので、列をつくってだらだらのろのろ移動しながら他人の頭越しに鑑賞するというのがもどかしい。画集買って茶でも飲みつつおうちでのんびり眺めるほうがいっそ良いかも知れない。
入ってすぐの第一室は書画で埋められています。
書道を習っていたころは「規格どおりに書くこと」が眼目で、きらいじゃないけれど愉しいとも思わなくて、やがてやめてしまったのですが、この年齢になってみれば、
「ええわあ……」
としみじみ見入ってしまいます。彼の国は、やはり筆と墨と紙と漢字の国なのだなあ。北宋第八代皇帝、風流天子・徽宗の手になる
祥龍石図巻、痩金体の尖り具合とか、ちょっとすきです。しかしびっくりしたのはこれか。
黄庭堅筆 草書諸上座帖巻
人が書いたんじゃないみたい。狂っているいい意味で。気の遠くなるような基礎鍛錬をやってはじめて「狂う」「遊ぶ」ができるのでございますよ、という。
同じくらいみとれたのはこれ。
鮮于枢筆 行草書蘇軾海棠詩巻
この画像ではちまちましてみえますが、実物はのびのびとして力強く、端正かつ品があってすがすがしい。黄庭堅の奔放さに幻惑され、ふらふら歩いてきてここで正気に返るみたいなかんじ。鮮于枢さんの人となりも事蹟も人生も知りませんし、手蹟をみれば書き手の人となりがわかるとか偉そうなことも申しませんが、なんだか書いたひとに呼ばれているような、立ち去りがたい気持ちになってしまいました。
さて、美術館や博物館の展観に行きますと、
「どれかひとつ、いただいて帰りたいなァ」
などというあさましい下心をいだきつつ観賞しがちな私です。
本展の場合はこの梔子と蓮(=水芙蓉)にちょっと煩悩コントロールがきかなくなりまして。
張成作 梔子堆朱盆
作者不詳 出水芙蓉図冊
「いただいて帰りたい=身の回りに置きたい」です。この2点は2点ともに座右に置くのにちょうどええサイズ、かつ美しくかつあいらしい。あいらしいといえば個人的なおめあてだった
康熙帝南巡図巻 第十一巻・第十二巻。二巻同時に全巻ひろげて展示されるのは世界初だそうです。1巻が30メートルくらい。バカ長い。そのバカ長い絵巻にどえらい緻密さで描かれている無数のひとびとがいちいちあいらしく、そのあいらしさの堆積を俯瞰してみれば豪快。ちょっとくらくらします。
という意味では
孔雀翎地真珠珊瑚雲龍文刺繍袍も。
緑の絹糸の上に孔雀の羽をコイル状に巻きつけ、それを紺繻子の地に敷きつめて、真珠や珊瑚で彩った龍袍。
「孔雀の羽」をつかった衣装といわれてこの私が『無極』の黒衣を思い出さずにおられようかいやおられません。
こちらによれば、
中国には古くから美しい鳥の羽を身に纏いたいという願望があったようです。中国の『南斉書』という書物には、南北朝時代、斉武帝の子息が職工に孔雀の羽で織った衣を作らせ、その姿はとても華麗で貴高かったと記されています。(中略)美しい孔雀の羽を身に纏うことは、皇帝たちの至高の望みでもあり、権力の象徴だったに違いありません。
無歓が鬼狼に纏わせる黒孔雀の羽でつくった黒衣というものは、無歓自身の至高の野心をその下にひそませていたのかもしれないし、『新少林寺』の最後で曹蛮が纏う煌びやかな龍袍(=権力の象徴)も、裏を返せばおぞましい黒衣なのじゃないだろうか。
と、そんな煩悩モードで孔雀翎地真珠珊瑚雲龍文刺繍袍をごらんになってしまったかたは、ほかにもいらっしゃいましょうか。いたらぜひおともだちになってください。
会場内には乾隆帝の書斎、
三希亭も再現されていました。
「いただいて帰りたい」んじゃなく、住みたいと思いました。
四畳半ほどの質素なスペースに、お気に入りの文房具やら調度やら置物やらをちまちまと詰めこんだお部屋。見渡せばすきなものしか無く、のばせばすぐに手が届く。なんというコージーな宇宙でしょうか。いまのアパートがくそ狭くってよう、とかぼやいておるのじゃなく、住まい方と住まう側の気持ちとセンス次第でいくらだって至福の空間はつくりだせるということなのですね。まあ乾隆帝はふだんはバカ広い紫禁城にいらっしゃるのでオフタイムくらい狭いとこにこもりてえよってかんじであれをお造りになったのでしょうが、これまであんまりどうだって良かった乾隆帝というおかたにやにわに親しみを覚えてしまういま。『書劍恩仇録』読んでみるかな。
同行していただいたのは胡軍さん迷のみなさま(
みんきぃさん、遵命さん、blueashさん、クララ♪さん)。
展観を見ながらなにかと煩悩コントロール不能に陥り、見たあとのランチタイムのおしゃべりで別の意味で煩悩コントロール不能に陥り。いやー充実した一日でしたっ。ありがとうございました。
そしてまた、いろいろといただいてしまいました。こちらは遵命さんから。
ある意味一級文物です。