こんなとこまでつくっといていまさらですが、2009年最大の収穫は、「劉燁(Liu Ye)」という役者を知ったことでした。
「劉燁の映像を観ずに暮れる日は無い」
というのは、誇張でもなんでも無く事実です。
『藍宇』
『山の郵便配達』
『小さな中国のお針子』
『天上の恋人』
『パープル・バタフライ』
『恋の風景』
『PROMISE 無極』
『王妃の紋章』
『姐御〜ANEGO〜』
『私の中に誰かがいる』
『ブラッド・ブラザーズ─天堂口─』
『ジャスミンの花開く』
『硬漢』
『米尼』
『美人草』
『コネクテッド』
『建国大業』
『画魂 愛の旅路』
『始皇帝暗殺 荊軻(荊軻傳奇)』
我ながらよく観たもんです。そんだけの時間と金とエネルギーがあるんだったら他の映画もうちょっと観りゃあ良いのに、と笑われそうな時間と金とエネルギーをすべてこのひとひとりに費やしてしまいました。いろいろな映画をまんべんなく鑑賞して愉しむ「映画ファン」では自分はもとよりなく、
偶さか、『藍宇』をすきになってしまった。
そうしたら、偶さか『藍宇』が「映画」という表現をとっていた。
というのが感覚としてはもっとも近いです。
そしてこうしたドラスティックな振れ方こそが、自分には自然といえば自然なのでしょう。本能に素直に沿って、微塵も悔いの残らない7ヵ月でした。愉しかったです。このうえ無く。
ほんではそんな有病の年を寿いで、キャラクターの偏愛ヘヴィロテ順に、ベスト5の回顧などしてみますか。
No.1 Lan Yu from LAN YU
『藍宇』を何度観ましたとか、最早勘定すんのも馬鹿らしいです。ほんとうにおそろしい、底の知れない映画です、ええ。そして、そのおそろしく底の知れない映画最大の魔であり謎であるタイトルロール。凡才が撮って凡才が演りゃあBL臭いおセンチな凡作で終わるような話がここまで異常な作品に昇華したのは、藍宇がこのひとだったゆえだと、病んじゃったついでに言ってしまいます。こういう破格の役に20代初めで出逢って、それをここまで完璧に演じてしまったことは、もしかすると劉燁という役者にとっては不幸といえるのかも、とすら。才能というものを備えた役者は、しかしそのくらいの呪いで縛られたほうがむしろ美しいのかも知れない、とも。
No.2 Guilang from PROMISE
『PROMISE』は一部でトンデモ映画呼ばわりされていたりもするため、ああトンデモなのねと思って鑑賞したところ、トンデモどころかうっかり感動などしてしまう始末でした。劉燁のチャームのひとつである「不憫」のわかりやすい結晶化という気がしました、鬼狼というこのキャラクターは。綺麗で穢くて、愚かで哀れで。惚れた相手のためなら命投げ出すくらい一途で。上下のひとと同一人物とは俄に信じがたいグラマラスなビジュアルは、さすが身長185センチメートルだけに人間離れした美しさで。それも込みでなんかもう自分、恥ずかしいくらいこのひとがすきでこまります……。
No.3 Xiaolie from THE FLOATING LANDSCAPE
藍宇をもうすこし幸せなかたちで生き直させてあげたいという意思が、プロデューサーを務めた關錦鵬監督にはあったのかも、と思いました。小烈という役に劉燁を推したのも監督だそうですし、あからさまでは無いにせよ、どこか藍宇的な匂いのする子です。やっぱりチェックのシャツ着せられちゃってるし。郵便配達員の制服、緑だし(笑)。藍宇よりはポップでかわいらしく、藍宇ほど性的でなく。痛いような熱っぽいようなまなざしひとつでじれったく「恋」を語らせりゃ劉燁、無敵。
No.4 Wang Jiakuan from SKY LOVERS
いろんなことでヘヴィーになるたんびに『天上の恋人』再生して、このあどけない笑顔眺めてふにゃふにゃになっていました。辺境で純粋培養で不憫で、しかも衒いも無くのびのびと性的ってあたりがほんとたまんないす。自分でバリカン持って自分の頭を坊主に刈るとこの表情なんて色っぽすぎていっそ卑怯。惚れた女の子にプロポーズしようと一生懸命歌を歌って、でもつれなくされて気落ちしてふっと歌いやめる瞬間の声のかすれ方とか、邪気がまるで無さげでいて笑顔が仄かに狡猾だったりするとことか、なんともいえず佳い風情です。
No.5 Kidnapper from CONNECTED
姫だのマドモアゼルだの呼びたい放題呼んですいません。だって役名「誘拐犯」てあんまりじゃないですか。そしてそんな誘拐犯さんが記念すべき「劇場で逢うはぢめての劉燁」というのもどういう宿命だろうかわたし。陳木勝監督によれば「(劉燁は)専攻は喜劇だったから、本当は映画でもコメディを演りたいらしい」んだそうです。「純朴で健気な田舎の男の子」という固定イメージ、なにかと不憫でかあいそうな役ばっかりの劉燁を「笑える」という発見はメカラウロコでした。とはいえ死に顔の綺麗さはさすがであらしゃいました、姫。
(以下、番外)
EXTRA 1 Jingke from ASSASINATOR JINGKE
物語のラストまで生き残れない役が多い劉燁さんですが、このドラマにおいては「生き残れない」が歴然としているところを、敢えてその無惨な死の在りようをまったく映像にしないという手法をとって、「荊軻/慶」という平凡かつ非凡な青年の悲劇を際立たせ、そこにまた演者劉燁の個性がみごとにはまるという相乗効果を生んでいます。最終回を観終わって、号泣しながらもう一度、第一話に戻ってみて更に愕然とする。その繰り返しがやみつきになる。初見のときはさして秀逸なドラマでも無いと思ったのですが、やはりこれも、『藍宇』から始まった病の一環であることに間違いは無いのでした。
EXTRA 2 Laosan from THE UNDERDOG KNIGHT
某動画共有サイトで夏に一度観たきりなので「ヘヴィロテ」というのにはあてはまらないんだが、一度観たきりなのにどうにもわすれられません。老三というこのキャラクターは、たとえば藍宇あたりのどこか少女めいた儚げな風情からはとんでもなく飛距離のあるゴリマッチョなので、みためだけで敬遠されてしまいがちなのかも知れません。しかしこの翼無き天使っぷり、破滅的な一途さ、そして純化されたイノセントの傷ましさというものは、紛れも無く藍宇直系の系譜です。「マッチョ」といううわべの記号なんざ姥皮みたいなもんなのだ。秋口に香港のリウさんに「DVD送ってよ」とお願いしたらなんかいきなりトラブっちまって、2009年も詰まりに詰まった本日になって漸く「お船に乗せたよ」とのお知らせが。リウさんありがと。2010年姫始め、もとい劉燁始めは、『硬漢』て次第になりそうです。