蛇果─hebiichigo─

是我有病。

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KISS AND RUN. ──『東宮西宮/East Palace, West Palace』



北京・紫禁城の脇にある公衆トイレ“東宮西宮”に集まるゲイたち、彼らを取り締まる警察。つかまった男たちの中に、警官に艶然と、挑発的に微笑みかける青年がいた。その彼、作家のアランに好奇心と憎悪の入り交じった尋問を続ける革ジャンの刑事。そんな気持ちを見透かしながら、アランはゲイとしての自分の半生を語り始める。



東軍西軍といえば天下分け目の関ヶ原(すみません石田と大谷が好きなんですすみません)。

東宮西宮とは中国語の辞書によれば

東宮[donggong]:皇太子の住む所。皇太子。
西宮[xigong]:皇帝の妃嬪の住まい、またはその人の称。

(中日辞典/小学館)

そのような意味だそうです。
このお話のなかの「東宮」と「西宮」は、故宮を挟んで東にある人民文化宮と西にある中山公園、そのなかの、いわゆるハッテン場としての公衆便所を指します。
同時に、北京のゲイ・コミュニティそのものも指す隠語なのだそうです。


さて。
趙雲@赤壁後の胡軍作品として、まずなにを観るべきなのか。

と思ったとき自分は一も二も無く『藍宇』だったわけで。
一も二も無く『藍宇』選んだ自分の野性すげえ!ぐらいの天狗っぷりだったですが、その後ネット巡りをしていましたら、「くさってない一般人が赤壁直後にいきなり『藍宇』観るのはきつい」という御意見もあったりなんかして。


えええええ。
あんなかわいらしい普遍的恋愛映画できついっていうんなら、じゃあこの映画の位置付けってどうなのよ。


そりゃべつに私がくさっているから「そういう」題材が好きだということではなくってですね。すくなくとも
「胡軍という演技者を堪能する」
という一点において、『東宮西宮』はとても優れた作品だと思いますよ。
この映画の「小史」という役を演じた彼だからこその陳捍東であり趙雲子龍だったんだなあと、思いましたよ。


けどまあ実際は、なんてなこと思う間も無く麻薬的快感に身を攫われる。
そんな蟻地獄な秋の夜長だったわけなんだが。
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| 12:51 | 電影感想文。 | comments(6) | trackbacks(1) |
CITY OF LIFE AND DEATH



2010年日本公開決定だそうです。


21日・22日と「レアナンバー大解放!再発記念限定初期曲の2夜」と銘打った筋肉少女帯さんのライヴ@赤坂BLITZで完全燃焼し、22日は筋少ファンの某お嬢さんと地元のファミレスで深夜1時までアツい筋少語りして家帰ってきてPC開いたらこのニュースで。


びっくらしました。


『南京!南京!』というタイトルと、それがどういう映画かということだけは、うすぼんやりと知ってはいました。
知ってはいましたが、でもたぶん自分とは縁の無い映画なんじゃなかろうかなあ、と思っていました。
というか、劇場に観に行くのはどうにも気が進まない類の映画だなあ、と。
自分とは縁の無さそなそんな映画に主演している中国人俳優と、『藍宇』でタイトルロールを演じていた中国人俳優が同じひとである、ということは『藍宇』で劉燁にはまってはじめて知りました。






テーマがテーマであるだけに、どのようにこの映画に接したら良いのか、自分自身いまだ決めかねているようなところがあります。とりあげられている「事件」についての己の知識もあまりにも貧弱に過ぎるため、いまはまだなにかを言うべきでは無い、とも。
ですが、正直日本でこれは観られないと諦めていたので、テーマとか内容とか映画の出来とかにかかわらず、素直に喜びたい気持ちです。取り敢えず歴史のお勉強からはじめます。



『南京!南京!』ウェブサイト→




| 02:37 | Liu Ye(劉/リウ・イエ) | comments(4) | - |
兄貴CUT降臨。
本日発売のCUT10月号102・103ページに、胡軍さんが載ってます。
カラー見開き、インタヴュー1ページ+お写真1ページ。


 CUT OCTOBER 2009 No.253 ROCKIN'ON



わたくし諸事情によりこの雑誌は毎号お届けいただいているのですが、今号ばかりはぺらっとめくった瞬間変な声が出ちゃいましたよ……。
いまさらCUTが胡軍を取り上げるとは思ってなかったもんで、ちょっとびっくりしましたよ。
やっぱ来日してみるもんだなあ。
趙雲みーはーの自分も若干びびりつつ参加さしていただいた8月のイベントについても言及なさってます。

今回、日本で多くの方々が僕のことを応援してくださっていることを目の当たりにして、本当に感激しました。


いい奴じゃないの兄貴……(涙目)。
インタヴューの受け答えも、とっても明朗できまじめなおかた。ほれなおす。
| 00:18 | Hu Jun(胡軍/フー・ジュン) | comments(2) | - |
22nd TOKYO INTERNATIONAL FILM FESTIVAL



第22回東京国際映画祭「アジアの風」部門に於いて、胡軍先生主演『カンフー・サイボーグ/机器侠』が上映されるそうです。

【上映スケジュール】
●10月19日(月) 19:50 - 21:35(開場19:30)
六本木会場:TOHOシネマズ 六本木ヒルズ Screen 6
●10月22日(木) 10:50 - 12:35(開場10:20)
六本木会場:TOHOシネマズ 六本木ヒルズ Screen 7

【チケット】
9月26日(土)午前11時から電子チケットぴあにてプレリザーブ受付開始


ポスターいい顔してんなあ(笑)。
予告編のマヌケさにも心惹かれます。
くじ運ナッシング女ですけど、チケット取れたら観たいなあ。


あとこっちもです。




提携企画2009中国・東京映画週間で、胡軍@顧祝同、劉燁@紅軍老戦士でご出演の『建國大業』プレミア上映だそうで。
ポスターほとんどウォーリーをさがせ!状態。
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| 00:35 | Hu Jun(胡軍/フー・ジュン) | comments(0) | - |
いと悩ましき。
中華圏の役者さんのことを書こうと思ってふと立ち止まったのは、彼らの姓名の表記をいかがするか、ということでした。


先様も漢字というものをお使いになるお国だし、個人的に漢字というものがかなり好きでもあるので、やっぱり漢字表記をしたい。
でもですね、たとえば劉燁(Liu Ye)さんの「燁(ye)」という字。
私が使っているブラウザ(Safari4.0.4)は、「燁」という字はちゃんと綺麗に表示してくれるんですけども、環境によっては(たとえば携帯からご覧になっているかたとか)きちんと表示が為されず、正しい字体で伝わってくれない、という問題がある。


「燁(ye)」は日本語読みすると「ヨウ」、「美しく輝くさま。はなやかなさま」をあらわします。

如花(として花のごとし)
然若神人(然として神人のごとし)
出之然、玉質而金色(之を出せば然、玉質にして金色なり)

などといった用例のある、とても美しい字。

ブログさんやサイトさんを巡ってみますと、苦肉の策で

[火華]

と、偏と旁を単体の漢字で以て表記なさってる例も散見します。
確かに会意では「燁=火+華」なので間違いでは無いのですが、それだとなんか、結果的に「燁」という字の持つマジックが消えちゃう感じがする。
なので当ブログではリウ・イエは「劉燁」で通しますが、通されても表示されねえし、という向きは以下の画像でご確認くだされ。



『藍宇』のオープニングクレジットですね。この並びで早くももえもえしてしまうばかもの……。




姓名絡みでもうひとつ。
中華圏の役者さんの姓名のカタカナ表記をいかがするか、という問題です。

校正者という仕事をしている関係上、いろいろな媒体に登場する人名、組織名、商品名その他固有名詞の表記というものについては、それなりに神経をつかいます。
胡軍さんについてぐぐっていたら、中国語の翻訳家のかたが、こんなことをお書きでした。

「ピンイン表記の英語読みに苛立つ日々」(マダム・チャンの日記)

「胡軍」のカタカナ表記に対する違和感が述べられています。
「Hu Jun」は、ピンインに忠実に表記すれば「フー・ジン」がより近い、ということだそうです。


たとえば仕事で『レッドクリフ』という映画絡みの記事を校正していたとする。
そこで「フー・ジュン」という表記を、原語に近いのは「フー・ジン」なんだからそっちに直せと赤入れをしたとする。
たぶん採用されません。
なぜなら、『レッドクリフ』の公式サイトその他での「胡軍」の表記が、圧倒的に「フー・ジュン」だから。
公式がそうなってんだからそっちに従いましょう。と判断されるわけです。

たとえばそれが「フー・ジン」に直されて、その形で印刷されたとする。
まず間違いなく読者様から、「ュ」が抜けてるぞどこに目ぇつけてんだばかやろう。というつっこみが入ります。
なぜなら、『レッドクリフ』の公式サイトその他での「胡軍」の表記が、圧倒的に「フー・ジュン」だから。

私如き一介の在宅校正者ならばいざ知らず、その言語に精通しているかた、翻訳という仕事をなさっているかたには、これはかなりのジレンマであろうと思われます。
ちなみに、『画魂』のDVDボックスのパッケージの表記は「フー・ジン」でした。


では、ピンインをローマ字表記したHu Junが、実際に自分の耳にはどう聞こえるか。

胡軍自身のインタヴューでの発音を聴く限りでは、「フー・ジュン」に近く聞こえました。
「ュ」をちょっと呑み込み気味の「ジュン」、て感じかな。
或いは、ウの唇でイと発音する感じか。
すくなくとも「ジン」という字面から想像される、口を横に引っ張って発音するイ音ではありません。
この辺りはもう、実際に中国語習ってみないとなんとも言えないなあ……。



姓名表記のついでに、映画ファンにはお馴染み(笑)『スクリーン』表記問題。
御意見はいろいろとあるようです。

「ロードショー」がなくなり、「スクリーン」が残る悪夢(先っちょマンブログ)
アルトマンかオルトマンか─人名表記について─(プロフェッサー・オカピーの部屋[別館])

外国のかたの人名表記は、ほんとうに悩ましいものでございますね。
| 17:24 | blanc et noir | comments(0) | - |
たびじのはじまり。




『藍宇』で蟻地獄だった魔の五月が過ぎ。
疲弊しきった身体と腐敗しきった頭で、
「神様、あたしはいったい、どこに向かえばいいんでしょう……」
と呟きながら蹌踉と辿り着いた先は、『画魂 愛の旅路』という全30話のテレビドラマでした。


映画『藍宇』の監督と主演コンビが再び顔を合わせたことで、製作発表時から大きな注目を集めた。

(Wikipedia)

そんなこといわれたら、『藍宇』落ちのこの身としては、胡軍(フー・ジュン)・劉燁(リウ・イエ)単独仕事に手を出す前にやっぱもう一度セットで拝見したいです!と思うのが人情。

六月は吉井和哉さんの全国ツアーで仙台と新潟に旅をし、その合間合間に『画魂』で愛の旅路だったりもして、自分の人生ここまで旅から旅への旅鴉だった日々もかつて無く。
思へば遠くへ来てしまったことでございます。


で。
おもしろかったです、『画魂』。


關錦鵬(スタンリー・クワン)監督の演出は、やっぱりえらく自分の肌にあうのでした。張叔平(ウィリアム・チョン)の美術によるところが非常に大きいと思いますが、抑えた色彩の美しさにしろ、調度ひとつ、光ひとすじにまで目配りの行き届く繊細さにしろ。
鏡の濫用による騙し絵の世界が、虚と見せかけてひっそりと差し出す実。
その騙し絵の世界を彷徨う人物、ひとりひとりに負わせる重荷と枷。

そして、そんな世界に佇むヒロイン潘玉良(パン・ユイリァン)。
演ずる李嘉欣(ミシェル・リー)の、「史上もっとも美しいミス香港」と謳われた玲瓏たる無欠の美貌。





私は男でも女でもいい、一日一度は美人をみないと体調が悪くなる人間なんですけれど、『画魂』視聴期間はおかげさまで毎日が極楽浄土でした。ありがたいもったいない。
加えてこのヒロインが、美人な上に気性も良くて画才もあってしかもちょっと天然入ってる(重要)最強無敵総攻上等女。
気の毒なのは、そんなヒロインをめぐって恋の鞘当て(ぶはは)を演じなけりゃならぬ殿方おふたり。


玉良の夫(正確には玉良は妾なので旦那というべきか)であるインテリ官吏、潘贊化(パン・ザンファ=胡軍)。
上海の美術学校で玉良と出逢う画学生、田守信(ティエン・ショウシン=劉燁)。


いちおうメロドラマのお約束上「恋の鞘当て」って体裁になってるとはいえ、奪ったり奪い返したりとかいう派手な成り行きは皆無。
最初のうちこそ玉良挟んでそれなりに刺々しい緊張関係なのですが、理想に燃えていた贊化はどんどん落ちぶれて惨めになっていき、守信は何年経っても諦めと往生際が悪く、そんなふたりが気づけばいつの間にか傷の舐め合いみたいなことにもなっちゃってたり。

そしてそれみて、
「これのどこが『藍宇』とちがうドラマなんだYO!」
と愕然なわたしでした(笑)。


贊化はこのドラマの裏主役ともいうべき存在。
胡軍はたぶんこれの撮影前に『天龍八部』を撮ってたんじゃないかと思うのですが、あっちの豪放磊落な兄貴っぷりとは裏腹な、陳捍東に輪を掛けて複雑なキャラクターを、静謐かつ繊細に演じています。すらりとした長身で着こなす長衫とかスーツとか、ビジュアル的にも眼福至極でございます。
劉燁は、実年齢でもミシェルより8歳下なせいでしょうか、

「うるわしくてやさしいお姉様がすきですきでたまんなくって、お姉様がお嫁に行ってしまってからもなにかと理由付けてまとわりつく、ストーカーぎりぎりのシスコンの 子犬 弟」

以外のなにものでも無かったです。
ミシェルと並ぶとミシェルのほうが断然男前なので、なにかと倒錯的なことになってしまってあまりにも愉しすぎです。ある意味、すごくはまり役かと思います。


そんな『画魂 愛の旅路』でした。
一話ずつ、のんびり感想書いていきたいと思います。
| 09:37 | painting soul | comments(0) | - |
profil de lumiere
身体のパーツで自分がもっとも煩悩を覚えるのは骨です。


なかでも道の極みは「顴骨」です。つまり頬骨。
殿方御婦人問わず、頬骨美人というものに、そりゃあ弱いです。
刻んだように高く鋭く美しい頬骨を、なめらかな薄い皮膚が包んでいる。そんな風情は、いつまでながめていたって飽きません。

大雑把にいえば、頬骨を含む「横顔」そのものがフェティッシュなのだ。
額。頬。鼻梁。くちびる。顎。
すんなりとまるみのある線と、鋭角的に切り立った線で構成されるあのフォルムが。


で、いまさら私のような者が声を大にして言う事でも無いのですが。
劉燁(リウ・イエ)さんてかたは、横顔がたいそうお綺麗でらっしゃる。





彼の場合、美しい頬骨と寝癖つきそうに長いまつげが相俟って、その殺傷力ははかりしれません。



片や胡軍(フー・ジュン)さんには、当初「横顔が綺麗」というイメージはさほど持ってはおりませんでした。
しかし油断は出来ません。自分、このジャケ写一葉のために道踏み外して、危うく『天龍八部』全巻ぽちってしまうところでした。






うわーん兄貴ってばなんて理想的な頬骨をおもちなんでしょう。




そんなどさくさまぎれに、自分のらぶーな横顔の皆さんを、こっそり。
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| 00:40 | blanc et noir | comments(4) | - |
睡懶覚。──『藍宇』其の二
陳捍東と藍宇が、最初の出逢いから4ヵ月を経て再会したのは、冬至の夜だった。
冬至という設定は原作には無い。(原作では最初の夜が8月の終わりくらい、そのあとふた月ばかりでふたりは再会する。)
オリジナルのシナリオはわざわざ「冬至」と、ト書で指定している。
二十四節気の冬至は、陰が窮まり陽に返る日。物事が転換する境界の日である。
別名を「一陽来復」という。冬が去って春がくること。転じて悪いことがつづいたあとに、物事がよい方向に向かうこと。
陽暦6月の夏至を境に太陽の力が弱まってゆき、それが一度死んで、冬至を経て生まれかわる。


ドラマが走りだす最初の日を、原作よりも2ヵ月近くずらして冬至に持ってきた理由は、もしかしたら、そんなようなことなのかも知れない──とか、そんなようなことを掘っていくのが愉しくてたまんない因果者なのでほんとごめんなさい。

しかしなにしろ二十四節気のいわば本家本元は中国なんだし。シナリオ上に「冬至」とわざわざ書く行為にまったくなんの意味もこめていないとは考えづらい。
ものすごくざっくりいってしまえばそれは「世界が変わる日」。
そしてまた、夜がもっとも長くなる日でもある。
映画が描かないその一夜。長い長いその一夜を、ふたりはどんなふうに過ごしたのか。






藍宇はうつぶせで頭を片方に向けて眠っていた。薄暗い光の中、濃い眉毛、まっすぐな鼻梁、肉感的な唇が、いつにもまして魅力的だった。その表情はどこまでも静かでやすらかで、偽りのかけらもない。彼は目をとじ、睫毛を伏せていた。

(『北京故事』)


冬至の再会で世界が変わって、陳捍東の部屋で藍宇が目覚めるのは、それから9日のちの元旦。
藍宇が「目覚める」ところから始まるっていうのも、ほんとにいちいち芸が細かいと思います。

この場面の藍宇が、とにかくかわいい。
最初の夜のぎこちなさが消えて、表情にも身体にもやわらかさが出ている。捍東に対して、甘えとも挑発とも媚態ともつかない態度をとってみせる。
なにより、光のなかで笑ってくれる。

あんなあいらしい笑顔みせられちゃったらおっさんもう昇天です。

……と、おもわず自分に陳捍東が憑依してしまいますこの場面はいつだって。


最初に観たときは、単に再会の翌日の朝なんだと思った。
そのあとシナリオ読んだら「九日後 元旦」だった。
つまりその9日のあいだに、「お客様にはお見せできません」なあんな事態こんな事態がありましたと。
「お客様にはお見せできません」なあんな事態こんな事態を経たからこそ、9日後の藍宇はあんなにかわいくなっちゃったと。
そういうわけなんですね?

それ死ぬほど見てえ。

と思うが死んだって無理だ。もうそのあたりは脳内でこっそりスピンオフ綴るしか、ええ。

『藍宇』は時間経過がわかりづらくて不親切な設計といわれるけれど、「敢えて描かない」「敢えてすっとばす」という客へのぶん投げ方、その間隙を縫う焦らしの芸、その差し引きの手際の絶妙さがあってこそ佳作たり得ているのだと思う。なにもかもすべて事細かに説明され、納得ずくで鑑賞したところで、「ああそうですか」でお終いじゃないの。

……なんてことをしかし自分も、シナリオ読んだ上で言ってるわけですが。


ともあれ冬至の夜から元旦に至るまでの9日間を裏に秘めたこの場面が、なんだか異常に好きで困ります。

クローゼットの前で捍東に下着を脱がされそうになって、抗いつつ、ふたたび蕩かされていく藍宇がとても佳い。
擲つように捍東の首に回される藍宇の腕が艶めかしく美しい。
悲嘆も絶望もまだここには無い。そんなものとは無縁のふたりが、ただ幸福なままで、光のなかにいる。
10年という悲哀を纏いつかせた終盤の彼らの「幸福」と、ここでの彼らの「幸福」は、あきらかにちがうもので、でもどちらも私は愛して已まない。


ずっと笑っていてほしかった。
ずっと笑っていたかった。
そうはならなかった未来を、この儚い光に重ねる愉悦も含めて。
| 11:49 | 藍迷。 | comments(2) | - |
藍と呉藍。
中国語の辞書を引いてみると、

“藍(lan)”は「青い、青色」に相当することが多く、“青(qing)”は「青色」「緑色」「黒」などをさすが、“青菜”“青絲”などのように他の語と組み合わせて用いられる。
(中日辞典/小学館)

とある。藍と青を組み合わせた「藍青」は、美しい字面に反して「純粋でない」という意味になる。


彼の国の彼の都市では、真っ青に晴れ上がった空のことを、

「北京的藍天(Beijingdelantian)」

と呼ぶそうだ。へえと思った。自分の感覚的には空の色は「青」で、「藍」ではない。「藍」は若干緑がまじった感じの色合いなので、目にうつる空の色からは遠くなる。


藍天の「天(tian)」は「空、天、天空」。
藍宇の「宇(yu)」は「すべての空間、天地四方、世界」。
「天」は天文学的な、可視的な「空」。
「宇」は必ずしも可視では無い、茫漠とした「空間」そのものをあらわす。
そういう違いということだろうか。


「藍宝石(lanbaoshi)」はサファイアのこと。
九月生まれの自分は、だから「藍」という色名に他の色よりも強い思い入れがある。もともと青系の色が好きだ。『藍宇』のヒロイン(笑)の名がもしも「藍宇」じゃなかったら(つまり物語の題名そのものがちがっていたら)、いま、こんなところでこんな文章書いてない。
陳捍東は「セクシーな名前」と言ったけれど、性的というよりも普通に美しい名前だと思う。男の名としてみれば綺麗に過ぎる。原作者の北京同志が(その後ペンネームを「筱禾」に変えたそうですが)自分の紡ぐ物語の主人公に「藍宇」という名を与えたそのときに、そのあとに起きたいろいろなことは、もうすべて決められてしまったのだろう。
名というのは一種の呪いだ。ひとやものは与えられた「名(=文字)」に縛られ、与えられた「名」の約束する道を辿る。そのように出来ている。
「藍宇」という呪を背負わされた彼は、やはりああいうふうに生きて、ああいうふうに死ぬよりほかに無かったのだろう。


インターネットという世界に足を踏み入れた10年前、その世界での己の仮の名を「レッド」とした。
通常身に纏う色は青か黒、赤には縁が無い。縁が無いからその色のもつ力が欲しいと思った、これも呪。
4年前に始めた本宅のタイトルにも赤はリンクさせたし、ミクシィなんかで使ってる別ハンは「呉藍」。「呉(くれ)からきた藍(あい)」が音変化して、「紅(くれなゐ)」になる。
この裏座敷を増築するとき、「二藍」と名付けてもいいなと思った。
藍に呉藍を重ねてつくる紫を二藍(ふたあい)と呼ぶ。しかしそりゃあんまり感傷的でこっぱずかしいだろうと思いなおしてやめにした。そのように名付けていたら、またちがう運命だったろう。



| 11:16 | 藍迷。 | comments(0) | - |
可哀相な王子様。──『王妃の紋章/Curse of the Golden Flower』
本日は2009年9月9日です。
謹んで、重陽をお祝い申し上げます。
では厄祓いも兼ねて、重陽の一日をめぐる陰惨なファミリードラマの感想など。

『王妃の紋章』




10世紀中国の五代十国後唐時代。黄金に輝く宮廷では、永久の繁栄を願う重陽節を前に、不穏な空気が渦巻いていた。継子である皇太子と不義の関係にある王妃。王妃毒殺を企てる王。王位奪取を密かに狙う息子たち──。家族全員が隠し持つ様々な策謀が複雑に絡み合い、ついには国をも揺るがす大惨事をもたらす。


もとになったのは舞台劇。1920年代の夏の一夜、とある資産家の家で起きた悲劇を描く『雷雨』という、中国の演劇学校では必修演目にもなっているような、たいへん有名な物語だそうです。
映画の原題『満城尽帯黄金甲』は、唐代末期の反乱指導者、黄巣の詩の一節。
この詩には「我花開後百花殺」などというえらく痺れるフレーズもあって、行間からはほんのり血の匂いが滲みだしてきて、すてきです。
でも「ほんのり」なんてもんはたぶん、きわめて日本的な美意識なのでしょう。日本に生まれ、日本文化どっぷりで育ってきたため、私はやっぱり「ほんのり」に惹かれますが、そのような「ほんのり」など完膚無き迄に蹂躙して顧みない映画でしたこれは。
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| 11:55 | 電影感想文。 | comments(2) | trackbacks(1) |
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