生活と云う名の。──『藍宇』其の燦拾桎
2014.05.13 Tuesday
もう他人同士じゃないぜ
あなたと暮らしていきたい
〈生活〉といううすのろを乗り越えて
デビューアルバム『BACK TO THE STREET』に収められた“情けない週末”という楽曲で佐野元春はそう歌った。1980年だった。パーキング・メーター。ウイスキー。地下鉄の壁。死んでる噴水。サイレン。ビルディング。「〈生活〉といううすのろ」とは一線を画したそうしたものたちを夢みていられた。長閑な時代だった。遠からず「〈生活〉といううすのろ」に追いつかれ咀嚼され呑み込まれることを予感しながら、だけどひょっとしたら逃げおおせることができるかも、地図ももたずに私たちは長閑に夢みていられた。
〈生活〉といううすのろさえいなければハッピーでビューティフル。ハッピーでビューティフルなまま死んじゃったひともいた。いっそ自分も死んじゃったほうがよかったかも。2014年のいまはなにかとうすのろな生活というものがけっこうすき。眠ったり起きたりごはんをたべたり風呂に入ったり、植木に水をやったり買い物に行ったり掃除をしたり、お茶を淹れようとしてうっかり茶碗を割ったり、トイレが詰まって往生したり。映画であれドラマであれ小説であれ漫画であれ、だれかが生活をする、うすのろなその様をみるのがすき。
うすのろな私の生活とすでに不可分になっちゃった『藍宇』でも、たとえばこの場面なんかすごくすき。
「〈生活〉といううすのろ」を怖れず、共にそれを乗り越えていく。
捍東と藍宇がそう思い決めた刹那、呆気無く終わってしまう彼らの〈生活〉。
捍東と藍宇が其処にいたのに。
捍東と藍宇は其処にいない。
あとにのこるのは、うすのろなふたりの美しい10年。
その10年に囚われたまんまの、うすのろな私のうすのろな5年。
●美しい名前。──『藍宇 Lan Yu』
●シガ フタリヲ ワカツマデ。──『藍宇』其の拾参(2011年5月13日)
●三年不蜚不鳴。──『藍宇』其の弐拾詩(2012年5月13日)
●情熱の嵐。──『藍宇』其の燦拾讃(2013年5月13日)