三年不蜚不鳴。──『藍宇』其の弐拾詩
2012.05.13 Sunday
21:25
三年前の今夜は泣いていました。二年前の今夜は病院のベッドの上でした。一年前の今夜は、愛の水圧について考えていたように思います。同月同日の今夜。『藍宇』を観て、ぶつぶついうことにしました。
21:38
国中有大鳥、止王之庭。三年不蜚、又不鳴、王知此鳥何也。王曰、此鳥不飛則已、一飛沖天、不鳴則已、一鳴驚人。自分のこの三年も不蜚不鳴といえばいえるような。とはいえ一鳴驚人でも無い。これより無駄に囀る。では。
21:40
藍宇。
21:48
陳捍東が玉突きしてた同じころ。黒ラベルはおっさんがのむ酒だと思っていた。しかしV.I.ウォーショースキーが愛飲してたので憧れでもあったんだわ。実際のまないうちにウィスキーそのものがのめなくなった。『藍宇』観るたびに黒ラベル買っときゃ良かったとすこし悔いる。今日も買ってない。
21:57
藍宇降臨。捍東がテレビのヴォリュームを落とす理由がわからない。テレビの前を横切る捍東を鬱陶しそうによける藍宇。泥棒扱いされて傷ついた風で目を伏せる藍宇。藍宇の体臭(汗臭かったんだとおもう)をわずかに嗅ぐ捍東。寝るまえの段取りっぽいいたたまれないこの空気。なんか他人事じゃない。
22:03
捍東の胸で藍宇の精液が光る。そして藍宇の胸にも名残の飛沫。キスまでのあいだ、どこかでずっと、水の滴る音がきこえている。その水音にくちびるとくちびるがまじわる音が重なってそして浄闇。闇に消える刹那の胡軍さんの背筋がいつも素敵。
22:13
陽暦か陰暦かわからんが冬至。ふたりが死んで生まれ変わる夜。レックリ後、初見のときはここでおもわず「パ……パンチなのか趙雲……」と天を仰ぎました。藍宇野暮ったくてどんくさくていじらしくてああなんか劉燁いまよりおっさんじゃねえ? でも脱ぐとあんなにかわいいなんてかわいいなんて。
22:24
新年快楽。藍宇の下着が新品じゃないっぽいのがかなしい。清潔な純白だけど布地の薄さの向こうにこの子の生活が透けてみえるように思えて。それはともかくぱんつ脱がすとこがデンジャーゾーン寸止めではらはらしたり残念だったりして自分がわからん。胡軍さんの手際が見事。つか演技指導?
22:29
しまった枝豆茹でわすれた。どうしていつもいつもいつも枝豆を茹でわすれて『藍宇』を観てしまうのでしょう私。枝豆→焼き栗→南瓜の種(たぶん)と藍宇がずーっともぐもぐしてて冬眠前の栗鼠みたいでかわいいなあ、とかほんのりしてるといきなり「シャンプーなに使ってる?」。油断も隙も無え。
22:35
妹=胡のつくひとのリアル嫁。と思って観るとなんともいえぬ気持ちになります。なんかここだとびみょうに藍宇につんつんしてみえる小紅ですが気のせいでしょうか。そして衛東役の役者さんはいまなにをなさっているのだろうと気にかかります。実家場面観るときだけだが。あとはきれいにわすれている。
22:44
逢えたよ嬉しいよおおおんと大型犬にむしゃぶりつく大型犬(まだこいぬ)。倒れずに持ちこたえる胡軍さんは全身これ胆なりだな。藍宇のてぶくろが黒ってのがかわいいな。足先と鼻面としっぽが黒いこいぬだな。歯でくわえてひっぱって脱ぐしぐさもかわいいな。結局なんでもかわいいな。
22:55
天安門事件直前の不穏さに捍東の湿った焦燥が重なって息苦しい六月の午後。バーの場面の馴れ合いっぽさとか、このオフィスの場面の空気とか、捍東と劉征てかつて身体の関係があった仲なんだろうと思えてならない。劉征が未だわからない。劉征を読み解いてくのってすごくおもしろそう。
23:06
胡軍さんの背中がほんとうに佳い。天安門前の捍東には台詞がまったく無い。表情も封じて撮った、その背中だけがひたすら恋を語って饒舌。役者としての技量が優れているからできることなんだがそればっかじゃない。恋情がしんじつだから。彼の背中からあふれだす恋を読む。観客としてのこの至福。
23:23
陈先生也喜欢喝红酒吗? 赤ワインばかりのむようになった恋人とさよならする朝、せいいっぱい強気を装って「ウイスキーでものむ?」って訊く。かなしい台詞だね。とか、赤ワインのみながら書いている。
23:32
別れ話のくだりあたりから捍東の脅えとか弱さとか情けなさとか、これまで必死で隠してたものがぼろぼろ見えてきて、その鍍金の剥げ具合の見せ方がやっぱり胡軍さんはうまい。卑怯は百も承知で、卑怯だからこそひきずられほだされる。
23:36
やっぱり藍宇のお部屋すごくかわいい。すごくすき。どこよりもいちばん行きたい。けどぜったいに行けない。
23:43
寝しなの藍宇も起き抜けの藍宇も、着てるもんがいちいちいもくさくってくたびれてるんだけど、そんなものを纏う藍宇が頭抜けてきれいで、そのきれいさその価値は捍東だけが知っていればそれでいい。誰ともわかちあわない。つまりそれが生活。私は『藍宇』のなかの「生活」に病んでいるのかも。
23:47
捍東がオフィスで逮捕される直前の藍宇というか劉燁の横顔。何度みても超絶にうつくしい。視線の先にあのうつくしさをひとりじめできたら、といつも捍東の気持ちになってみとれる。
23:49
リアル嫁もとい小紅と藍宇がグラス合わせるとこが佳いな。
23:52
この先だんだん観たくなくなっていくんですけど。いつものことですけど。
23:58
たかだか86分の映画。映しとられた物語は永遠に変わらない。それでも、何度観ても、何度でも、嬉しくなったり、楽しくなったり、しあわせになったり、悲しくなったり、つらくて前へ進めなくなったりする。あじわう感情はそのときどきでちがう。三年前の今夜の『藍宇』と、三年後の今夜の『藍宇』。
23:59
さよなら『藍宇』。とりあえず今日の日は。