蛇果─hebiichigo─

是我有病。

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茫茫人海。──『藍宇』其の拾九
冬至です。


太陽の力が一年でもっとも弱まる日。闇をくぐって再生へと向かいはじめる日です。
今日はとりわけお天気が悪いので朝なのにはや夕暮れのようです。
『藍宇』撮了から10年目となった2011年はいろいろなことがあり、いろいろなことを考え、いまも考えつづけていますが、それでも冬至はきました。出逢って三年目の冬至がきました。あんまりこういうことはやるべきじゃないのかもなと思いつつ、まあ冬至なのでスペシャルなのでちょっと浮かれていますので、御寛恕いただければ幸いです。


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賑やかな都会の一角。絶え間なく車が行き交う。寒風のなか、家路を急ぐひとびと。

1988年、冬至。

オーバーを羽織りマフラーを巻いた捍東が、ホテルのロビーからかろやかな足取りであらわれる。車を待つひとびとに目をやり、身を翻して歩き、ほど近い新聞スタンドへやってくる。
デイパックを肩に、冰糖胡蘆の串を手にしてふりむいた藍宇に出くわす。
人だかりのなかで、ふたりは同時に立ちどまる。



捍東 お、大学生。辛抱できなくなってくにに帰ったかと思ってた。
藍宇 そんな簡単にやめたりしないです。
捍東 ひさしぶりだな。元気か。
藍宇 4ヵ月……
捍東 うん?
藍宇 昨日で。4ヵ月。
捍東 あ。そうだったな。
藍宇 あの、今日……
捍東 あのさ……どうした?
藍宇 そっちから。
捍東 や、べつに。このまえ電話番号残したろ。かけてくると思ってた。
藍宇 メモ、うっかりしてそのまま洗濯しちゃって、干すときに気がついて。1000元はどうにか助かったけどメモはもうだめだった。
捍東 劉征がおまえのこと変なガキだってさ。
藍宇 ほんとに? ほかになんか言ってました?
捍東 わすれた。
藍宇 うそ。
捍東 うそでもいいさ。わすれたもんはわすれた。
藍宇 劉さんて、いいひとなんだ。
捍東 なんだそりゃ嫌味かよ。おい。そんなんで寒くないか。
藍宇 朝急いで出てきたんで、マフラーわすれてきちゃって。
捍東 (自分のマフラーをはずして)してろよ。ほら。


藍宇、捍東に歩みよる。
その首にマフラーが巻かれる。
捍東の両手が藍宇の腰にすべりおち、ふたりはそのまま動きをとめる。



藍宇 ありがとう。
捍東 (藍宇の耳許で)このあとは暇か。
藍宇 冬休みでみんな帰っちゃったから、ひとり。
捍東 おれがいるだろ。
藍宇 年越しには帰らないの。
捍東 うんざりだ。いちんちじゅう食ったり飲んだり、きりがない。
藍宇 食べるのってそんなにきらい?
捍東 知りたいなら教えてやる。おいで。


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お目汚しでごめんなさい。
中文ど初心者ゆえ翻訳の精度はもとよりあてにはなりません。直訳ではなく意訳、かなりざっくりと感覚的な口語訳です。1988年の28歳と19歳はどんなふうに会話すんのかなあと思って。ていうか自分の頭のなかの28歳と19歳はいつもこんなふうに会話してるんで、はい。

ト書きはオリジナルのシナリオのものです。
オリジナルのシナリオ(しばらくまえから『藍宇』の公式に行けなくなっていて、これも読めなくなってしまいました。リンクできなくてすみません)は、『北京故事』とも映画『藍宇』ともちがう、脚本家が紡いだもうひとつの『藍宇』というべき物語かと思います。
シナリオの書き方をちょこっとだけ勉強したことがあるのですが、最初に教わったのは、
「ト書きには情景描写と人物の動作以外は書いてはいけない」
ということでした。
お客さんの目に見えるかたちで表現できないこと、つまり心理描写とか、脚本家にしかわからないこと、曖昧なこと、脚本家の個人的な見解なんかは書いてはいけない。
ト書きを多用する脚本家も、ほとんど使わない脚本家もいますが、うまいひとが書くト書きはなにか詩のようでもあり、読んでいると目の先にいろいろな景色がうかんできます。オーラルで発する言葉(=台詞)が極端に少なくても、うかんでくる景色そのものがその人物の心情として、あざやかに立ち上がってきたりもします。

たとえば冬至の夜の藍宇がそもそもは冰糖胡蘆(=bingtang hulu 山査子やいちご、葡萄などの果物を竹串に刺し、煮とかした砂糖をからめたお菓子)握りしめて捍東の前にあらわれていたのだった、なんていうのは完成した映画からは想像も及ばないことでした。映像化しなかったのは正解だとしても、「冰糖胡蘆」ひとつで藍宇という男の子のいろんなことを考えてしまうわけです。
おなかすいちゃって、バスんなかで食べながら寮まで帰ろうと思ったのかな、とか。
お金がないので、それがお夕飯がわりだったのかもしれない、とか。
4ヵ月まえの真夏、自分に抱かれた怜悧そうな男の子が、そんなお菓子もって長いまつげ瞬いて「四箇月」、なんていう。
1000元あげたのにあいかわらずみすぼらしいあかぬけない恰好でマフラーもしないで雪のなかで、人波に呑まれそうになりながらひとりでぽつんと立ってる。
途轍も無く可憐ではないですかそんなもの。
その可憐さが陳捍東という人間が身の裡深くかかえこんださびしさに響いて、恋を呼んだのじゃないかとすら、思ってしまったりするわけです。


捍東と藍宇が街角で偶然再会したあとの、

兩人同時停歩於茫茫人海中。

という一節も、なんだかすきでたまりません。
「茫茫」は、「広々とはてしないさま」「ぼんやりかすんではっきりしないさま」。
「人海」は、人の多いことを海にたとえた語。
海流のように渦を巻き、流れては消えてゆく人の海のただなかで、奇跡みたいにふたたび出逢えた。一生に一度しか無かったふたりの時間が、厳冬の夜の匂いとともにそこに封ぜられているような気がします。
兩人同時停歩於茫茫人海中。
十年に亘るその恋が、ひかれあって足をとめたその刹那から、始まったのだと思います。










参考:《藍宇》劇本
| 11:11 | 藍迷。 | comments(12) | - |
Comment








今朝はすごーく寒かったけど、あえてマフラーをせずに家を出た馬鹿者のにんにんです。あぁ、どなたか私を呼び止めてマフラー巻いてくださいませ。
ちなみに本日の北京は晴れだそーです。ちょっと残念。
posted by にんにん | 2011/12/22 12:14 PM |
>にんにんさん

今日はさすがにマフラーなしじゃ寒かろう……お風邪など召しませぬよう。
私は家のなかでもマフラー巻き巻きでお仕事してます。
巻いてもらえる予定がないから自分で巻いてやらあ。
と、ある意味自暴自棄ですが、仕事しながらついつい捍東と藍宇が柚子湯に入ってる妄想とかしてちょっとあったまったりもして(ばかもの
posted by レッド | 2011/12/22 2:35 PM |
素晴らしい文章をありがとうございます。

ジミー・ガイ氏のオリジナルシナリオを、少しで良いから読んでみたいと思っておりました。
『藍宇』の公式HPは既にクローズされており、読む機会を逸してしまいました。
ですので、ほんの少しでも知る事が出来てとても嬉しいです。

その中で、藍宇は甘いお菓子を持っていたのですね。
冬休みに帰省できず、お菓子を持ってお家に帰る19歳。
想像すると切なくて涙がでそう。
捍東と再会できて本当によかったです。

マフラーの、あの場面は何度見てもしびれます。

マフラーにはまだ捍東の温もりが残っていたのかな、と思ったり。
あの後、捍東に温かなお食事をご馳走してもらったのかな、と思ったり。。

また素敵な文章を楽しみにしております。
posted by 晶 | 2011/12/22 8:30 PM |
こんばんわ、寒いですね。

冰糖胡蘆はイメージとしては、おまつりの屋台で売っているりんご飴のようなものでしょうか。最近はいちごやぶどうの飴も見かけますから、今度見かけたら買ってしまいそう。
そんなあまいものを片手に持った藍宇なんて・・・想像しただけでかわいい!
映像でも見たかったです。
シナリオではふたりは偶然に出会っているのですね。
映画では、偶然のようにも、捍東がわざわざ探して藍宇を見つけたようにも思えていたので。
posted by HAL | 2011/12/22 11:59 PM |
>晶さま

『藍宇』迷にとってはスペシャルな冬至の夜にふたたびのコメント、厚く御礼申し上げます。
オリジナルシナリオ、私は繁体字版だけ保存しており、ト書きはそこからの引用です。
台詞そのものは公開された映画の字幕(とヒアリングの突き合わせ)に基づいているので、ちょっと変則なかたちになってしまいました。
オリジナルから削られた台詞やト書きの一部が『藍色宇宙』に流用されて再構成されたような印象もあります。ラストなんか、
「ええええ捍東それでええんかい!?」
なことにもなっておりますが(笑)、『北京故事』を映画『藍宇』に読み直すにあたっては、こういうプロセスを経ていたんだなあ、とメカラウロコです。
もうネットで読めないのかと思うとほんとに残念……。

>マフラーにはまだ捍東の温もりが残っていたのかな

うわーん……。
捍東は傲慢な俺様野郎みたいに描かれてますが(最初の頃は実際そうですが)、マフラー分のやさしさをもらえた藍宇は、それだけで十二分に幸せだったんじゃないでしょうか。あまり多くを望まない子だから。
そしてまた捍東にとっても藍宇の存在が、寒い夜に差し出された「マフラー」のようなものだったんだろうなあと、あの場面を観るたびに思います。
posted by レッド | 2011/12/23 9:51 AM |
>HALさま

『北京故事』冒頭の藍宇はたしかやっと17歳くらいだったと思うので、そんな、おまつりの屋台のりんご飴的なもの(北京名物だそうです)を持たせてみたんでしょうか脚本家は。
リウイエさんが持ってるとこ想像すると、
「あ……あまりにも似合うじゃないか!」
と逆上してしまいますが、映画では枝豆とか焼き栗とかのべつ何か食ってる藍宇なのでこの上りんご飴的なものまで食わせるのはちょっとなあ、と却下になったのかも知れません。
でも、捍東が買ってあげる設定でも良かったのに。
ていうか私らの知らないとこで買ってあげてるシーンとか撮ってんのかも!
……と、なにかと疑心暗鬼を生ずなことになってしまいます(笑)。

冬至の夜の再会は、ト書きによるとほんとに偶然出逢ったということになってます。
でも、藍宇がいなくなってのちの捍東はこの冬至の夜の再会を反芻し、もう一度奇跡が起こりはしないかと、「茫茫人海」の只中を何度も何度も彷徨ったのじゃないか……と思ったりします。
posted by レッド | 2011/12/23 10:09 AM |
素敵なエントリーありがとうございます。毎年冬至の夕刻にはこのシーンを思い出し、心がほっこりします。先日行った香港で、イエ君のでっかい時計の広告看板見かけました。ホテルの地下入り口近くにあり、ホテルに帰る度イエ君に迎えられる感じで、一人喜んでおりました。
posted by kaori | 2011/12/23 2:01 PM |
北京へもし行くことがあったら、あの長い竹串に刺した果物の飴掛けを絶対に食べたいとずっと思っています。

とてもステキな記事なのにどうして「あんまりこういうことはやるべきじゃないのかもな」なんて思われるのでしょう?
思いもよらない解釈や感想を伺えて藍宇を好きな者のひとりとしてとても興味深く、また楽しく読ませていただきました(*^^*)
posted by みつむし | 2011/12/23 10:55 PM |
>kaoriさま

コメント、ありがとうございます。
時計の広告看板──CYMAですね? ああそれは羨ましうございます! ちっちゃいネットの画像じゃなく、街中にあるでっかい看板からあんな瞳でみおろされる感覚、いかばかりでしょうか。自分なんかウットリしていてマンホールにはまったりなどしてしまいそうです(笑)。
そしてそれは、やはり香港とか大陸とかに行かない限り味わえないエクスタシーなんですね……。

『藍宇』を知ってからは、それまでさして気にも留めずにやり過ごしてきた日々が、その色を変えたような気がします。
「二十四節気のひとつ」以上の感慨も感じなかった冬至という日が、こんなにあったかく意味深い一日になってしまうなんて。
ほんとうにこの映画には、なにかと教えられることばかりです。
posted by レッド | 2011/12/24 8:39 PM |
>みつむしさん

ステキとおっしゃっていただけて嬉しいです。ありがとうございます。
私は『藍宇』が好きすぎるので病が重篤すぎるので頭おかしいので(笑)、『藍宇』に斬り込んでいくときにはなにかと気苦労なことになってしまうようです……。

北京も青島も上海も香港も行ってみたいのですが、金も力も無い身の上なのでままなりません。行けた暁にはぜひとも冰糖胡蘆の立ち食いにトライしてみたいですね。できれば冬至の日に。できれば雪模様の夕刻に。
posted by レッド | 2011/12/24 8:48 PM |
管理者の承認待ちコメントです。
posted by - | 2012/01/18 2:02 PM |
>[2012年1月18日14時2分]さま

コメントどうもありがとうございます。
(些か差し支えあるかと思われましたので、非公開とさせていただきました。ご了承ください)

「あんまりこういうことはやるべきじゃない」の内容については言葉にするのも野暮だなと思い、ちょっと濁してしまったのですが、お酌み取りいただけたことが嬉しいです。

仰るように、愛も萌えも、けっしてオールマイティではないと私も思います。
自分の愛が誰かの愛を踏みにじり、自分の萌えが誰かを萎えさせる(かも知れない)可能性については、今後も忘れたくありません。
私は誰のものでもない「自分の言葉」を以て、自分なりのやり方で、『藍宇』という作品を愛していこうと思います。
この素晴らしい作品を送り出してくれた作り手への感謝と誠意の、私なりの表明のしかたです。
これからもよろしくお願い致します。
posted by レッド | 2012/01/18 3:27 PM |
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