『藍宇』で蟻地獄だった魔の五月が過ぎ。
疲弊しきった身体と腐敗しきった頭で、
「神様、あたしはいったい、どこに向かえばいいんでしょう……」
と呟きながら蹌踉と辿り着いた先は、
『画魂 愛の旅路』という全30話のテレビドラマでした。
映画『藍宇』の監督と主演コンビが再び顔を合わせたことで、製作発表時から大きな注目を集めた。
(Wikipedia)
そんなこといわれたら、『藍宇』落ちのこの身としては、胡軍(フー・ジュン)・劉燁(リウ・イエ)単独仕事に手を出す前にやっぱもう一度セットで拝見したいです!と思うのが人情。
六月は吉井和哉さんの全国ツアーで仙台と新潟に旅をし、その合間合間に『画魂』で愛の旅路だったりもして、自分の人生ここまで旅から旅への旅鴉だった日々もかつて無く。
思へば遠くへ来てしまったことでございます。
で。
おもしろかったです、『画魂』。
關錦鵬(スタンリー・クワン)監督の演出は、やっぱりえらく自分の肌にあうのでした。張叔平(ウィリアム・チョン)の美術によるところが非常に大きいと思いますが、抑えた色彩の美しさにしろ、調度ひとつ、光ひとすじにまで目配りの行き届く繊細さにしろ。
鏡の濫用による騙し絵の世界が、虚と見せかけてひっそりと差し出す実。
その騙し絵の世界を彷徨う人物、ひとりひとりに負わせる重荷と枷。
そして、そんな世界に佇むヒロイン潘玉良(パン・ユイリァン)。
演ずる李嘉欣(ミシェル・リー)の、「史上もっとも美しいミス香港」と謳われた玲瓏たる無欠の美貌。
私は男でも女でもいい、一日一度は美人をみないと体調が悪くなる人間なんですけれど、『画魂』視聴期間はおかげさまで毎日が極楽浄土でした。ありがたいもったいない。
加えてこのヒロインが、美人な上に気性も良くて画才もあってしかもちょっと天然入ってる(重要)最強無敵総攻上等女。
気の毒なのは、そんなヒロインをめぐって恋の鞘当て(ぶはは)を演じなけりゃならぬ殿方おふたり。
玉良の夫(正確には玉良は妾なので旦那というべきか)であるインテリ官吏、潘贊化(パン・ザンファ=胡軍)。
上海の美術学校で玉良と出逢う画学生、田守信(ティエン・ショウシン=劉燁)。
いちおうメロドラマのお約束上「恋の鞘当て」って体裁になってるとはいえ、奪ったり奪い返したりとかいう派手な成り行きは皆無。
最初のうちこそ玉良挟んでそれなりに刺々しい緊張関係なのですが、理想に燃えていた贊化はどんどん落ちぶれて惨めになっていき、守信は何年経っても諦めと往生際が悪く、そんなふたりが気づけばいつの間にか傷の舐め合いみたいなことにもなっちゃってたり。
そしてそれみて、
「これのどこが『藍宇』とちがうドラマなんだYO!」
と愕然なわたしでした(笑)。
贊化はこのドラマの裏主役ともいうべき存在。
胡軍はたぶんこれの撮影前に『天龍八部』を撮ってたんじゃないかと思うのですが、あっちの豪放磊落な兄貴っぷりとは裏腹な、陳捍東に輪を掛けて複雑なキャラクターを、静謐かつ繊細に演じています。すらりとした長身で着こなす長衫とかスーツとか、ビジュアル的にも眼福至極でございます。
劉燁は、実年齢でもミシェルより8歳下なせいでしょうか、
「うるわしくてやさしいお姉様がすきですきでたまんなくって、お姉様がお嫁に行ってしまってからもなにかと理由付けてまとわりつく、ストーカーぎりぎりのシスコンの
子犬 弟」
以外のなにものでも無かったです。
ミシェルと並ぶとミシェルのほうが断然男前なので、なにかと倒錯的なことになってしまってあまりにも愉しすぎです。ある意味、すごくはまり役かと思います。
そんな『画魂 愛の旅路』でした。
一話ずつ、のんびり感想書いていきたいと思います。